松永安左エ門：四丁目電気軌道：SSブログ

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松永安左エ門　[雑感] [編集]

作者: 水木楊
出版社/メーカー: 日本経済新聞社
発売日: 2004/03/02
メディア: 文庫

九州や名古屋などで広範囲に発送配電事業を展開していた東邦電力の松永安左エ門は、首都圏を牛耳っていた東京電燈の官僚的体質、殿様商売、乱脈経営を見て取ると東京進出を企てて東京電力(現在の東京電力とは別会社)を設立、首都圏の周辺から侵攻を開始します。
当時、電力事業は全くの自由競争で、電柱を建てて、契約を取り付けた家や工場に先に電灯線を開通させてしまえば勝ち、ところが値引きなどして利用者が乗り換えれば勝手に他社の電線を切って自社の電灯線を開通させる、といった無秩序な有様で、両者の間で様々なトラブルが発生します。たとえば二階家で、一階と二階で違う会社と契約といった事態も起こります。いわゆる電力戦争の勃発です。
松永の攻勢により劣勢に立たされた東京電燈に対し、三井の池田成彬は郷誠之助、小林一三を経営陣に送り込んで、乱脈経営の元凶であった若尾一派から経営権を奪うと、松永との和解を図ります。安売り競争で体力を消耗しつつあった東京電力もこれに応じ、1927年に両社は合併、松永は新会社の取締役に収まります。
ところが日中戦争、太平洋戦争と日本の軍部が戦争に突き進み、産業が総動員体制を求められるようになると、政府は電気事業を国の管理下に置くべく、国家総動員法および電力国家統制諸法案を成立させ、既存の電力会社には発送配電設備を現物供出させて、1939年に国策会社日本発送電と、地域ごとの配電会社を設立。
これらの動きにに反発していた松永でしたが、周囲の助言を受けてすべての役職を退き、現役を引退して、戦時中は埼玉の山中に引っ込んでしまいます。
戦後、この潔い行動が松永に再びチャンスをもたらします。戦争遂行のための経済統制に反対して官僚と戦った小林一三でさえ、近衛内閣に入閣していたということで公職追放になる中、松永は、日本発送電会社の民営化を検討する電気事業再編成審議会会長に抜擢されます。そして最終的にはＧＨＱの力を借りてまで電力再編を強引に推し進めて、1951年に、現在の9電力体制を作り上げます。
松永としては、戦前の電力戦争の轍を踏まえて、それぞれの電力会社に地域ごとの独占は許すものの、互いに競わせてサービスの向上に努めさせようという考えであり、そのため各社の経営陣には、松永が見込んだ優秀な人材が抜擢されます。
たとえば、関西電力の社長には、小林一三が育てた阪急社長の太田垣士郎を引き抜き、太田垣は就任早々に、関西の電力事情の逼迫を見越して、当時の関西電力の資本金の10倍もの資金を投じて丸山ダムを建設し、さらに大規模な黒部ダムの開発にも着手するなど、松永の期待に応える活躍をします。
また松永は、9電力会社の共同出資による電力中央研究所を設立して、今後の電力事業の方向性、さらには将来の日本のあり方を模索し、その中で、原子力の平和利用、つまり原子力発電の可能性についても検討するようになります。
しかし、やはり地域独占は両刃の剣だったようです。アクトン卿の格言（Lord Acton's epigram）を思い出します。
9電力会社の設立から68年が経過した現在の各社の状況、とくに昨今のニュースを見るにつけ、もし松永安左エ門が生きていれば、この状況をどう考えてどう動いただろうか、ということを思わざるを得ません。