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茶会記(6) [茶会記]

10月26日。奈良国立博物館で開催された正倉院展を見に行ってきた。今年は第60回目の開催を記念して、正倉院御物の中でもスーパースター級の御物の一つである白瑠璃碗が出展されるということで前評判が高く、混雑が予想されたが、朝から生憎の空模様であった所為か以外とスムースに入館することができた。お目当てはもちろん白瑠璃碗であり、真っ先に展示ケースの前へ駆けつけた。そこには、歴史や美術の教科書で誰もが一度は見たことのあるあのカットガラスの碗が、おそらく照明の加減もあったかと思われるが、妖艶な輝きをもって鎮座していた。
ただしこの器形自体、実のところ生産地であるペルシャでは割とありふれたものであったようで、多数の出土例があり、今回もその一つが参考品として展示されていた。また日本でも、大阪府羽曳野市の安閑陵古墳から全く同じ形の碗が出土している(現在は東京国立博物館が所蔵している)。この2つの碗が辿った運命については、井上靖が掌編を残している(「玉碗記」、講談社文芸文庫「異域の人・幽鬼-井上靖歴史小説集-」所収)。

ではなぜ、正倉院御物の白瑠璃碗が他に比べて貴重であるかというと、いわゆる伝世品(一度も土に埋もれたことがなく、人々の間で伝えられてきた品)で、しかもその由来がきわめて明らかであるためである。骨董品(と呼ぶのは失礼であるが)は伝世品で由来がしっかりしていることが最も重要であり、このことは、たとえば国宝の指定要件の一つにもなっているらしいが、正倉院御物というのはおそらく日本で最も由来がはっきりしている(聖武帝、光明皇后という所有者さえ特定できる)品々であることで貴重なのである。その中でもこの白瑠璃碗は、やはり教科書で見たことのある紺瑠璃杯とともに、遥かササン朝ペルシャからもたらされたという歴史のロマンをも纏っており、ひときわ人気が高い逸品である。
奈良国立博物館
URL:http://www.narahaku.go.jp/
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